2022年4月25日付けで毎日新聞に「ヒトラーと一緒に昭和天皇の写真　ウクライナ政府が動画から削除、謝罪」という記事が掲載されました(①)。 記事によるとウクライナ政府は、「現代ロシアのイデオロギー」と題する動画の中で、「ファシズムとナチズムは1945年に敗北した」と記し、ムッソリーニ、ヒトラー、昭和天皇の三人の顔を横に並べていました。動画は4月1日に公開され、23日以降にネット上で拡散され、昭和天皇をヒトラーと同一視したとして批判が相次いでいました。ウクライナ政府は「誤りを犯したことを心からおわびもうしあげます。友好的な日本の方々を怒らせるつもりはありませんでした」とツイッターに投稿し、動画から昭和天皇の顔写真だけを削除しました。

    

在日ウクライナ大使館の公式ツイッターアカウントによれば、ウクライナ政府の公式マークが付いている、問題の動画を掲載したアカウントは、前政権の時(2016年)に作られたものであり、現在のウクライナ政府とは何の関係もないとのことです。「製作した者の歴史認識不足と思われます」などとも書かれています。

政権交代から3年も経つというのに、公式の情報を発信するはずのアカウントが現政権とは関係のない者によって運営されているなどということが普通あり得るのでしょうか。しかもIT関係に力を入れているウクライナで。2016年は対露強硬派のポロシェンコ大統領の時代であり、そのポロシェンコはロシアに対して強硬な姿勢を持たないゼレンスキーを厳しく非難し続けてしていました。そんな人物の関係者に自身が中心となって行う活動の宣伝をさせておくはずはありません。政敵である上に、ロシアを挑発して両国関係を悪化させる可能性があるのですから。自身の活動の宣伝は前政権の頃の管理者にお願いして掲載してもらうのですか。そんなアカウントを放置しておいたのだとしたら、日頃から注意深く懸命に仕事をしていないのと同じです。 動画の公開から3週間も経って、しかも非難を浴びてから削除した上、自分たちとは関係ないなどと小学生のような言い訳をしてみせるウクライナ政府には呆れるばかりです。

先月の米議会での演説では真珠湾攻撃について言及しました。真珠湾攻撃は民間人を標的にしていませんでした。ウクライナは、ロシアがウクライナの民間人を標的にしていると主張し続けています。もしロシアと約80年前の日本を重ね合わせているのなら、ウクライナ政府の歴史認識が間違っています。日本へのリモート演説では「ウクライナ人は日本の文化が大好きです」などと言っていました。しかし、「文化が好きだから日本が好きだというわけではない」というのは最近テレビ出演が増えたウクライナの某国際政治学者が著書の中で言及したとおりです。ロシア文学が好きな日本人は大抵ロシアが好きでしょうし、ウクライナ美女に耽る日本人はウクライナが好きなものです。国内経済や制度が酷く外国へ逃れるほかなくて外に興味を持つ人たちの国と、国内で十分安定して暮らせるにもかかわらず外に出ていく人たちの国では価値観が全く違います。ウクライナは前者で日本は後者です。日本・ウクライナ両国の違いや日本の国民感情を理解していません。上っ面だけで「日本が好きです」とか「日本の支援に感謝しています」などと言われても日本人は信じません。支援を求めるなら求める者の態度というのがありますし、感謝しているならその態度を持ち続けなけらばなりません。そのために細心の注意を払うべきです。

昭和天皇の写真を削除したことで日本人には許されるかもしれませんが、ドイツやイタリアの人たちはどうでしょうか。今回の軍事介入によって苦しむウクライナ人を助けようとして、世界各国から支援が行われています。国からだけはでなく個人からも。今を生きるドイツ人にとってもイタリア人にとっても、第二次大戦の際の過ちは、触れられたくないものかもしれません。こんなにも多くの人が支援の手を差し伸べているこの時期に何故、自分たちが主張している「ただ一人の敵」プーチン大統領率いるロシア以外の国を持ち出す必要があるのでしょうか。

そもそもソ連でも過去にポグロム(ユダヤ人虐殺)が行われていました。ウクライナはソ連だったのですから、自分たちがやっていたに等しいのです。それを棚に上げて日本・ドイツ・イタリアの三国を「永遠の悪の枢軸」であるかのように扱う動画を掲載してしまうとは...(まさにウクライナが批判しているロシアがやりそうなことではありませんか)。
「それが欧米の普通の感覚です」というのなら、そういう認識をずっと持っていればいいと思います。しかし、日本などからの支援は、経済的な限界ではなく、日本人の心の限界の超えたときに終わることになるでしょう。

■参考文献
①毎日新聞　「ヒトラーと一緒に昭和天皇の写真　ウクライナ政府が動画から削除、謝罪」 (2022年4月25日掲載)
https://mainichi.jp/articles/20220425/k00/00m/030/013000c