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    Oligarch

   このページではオリガルヒ(新興財閥)について超簡単にまとめました。

1.オリガルヒ誕生の流れ
   ソ連は共産主義国であり、91年に解体された国家です。15の国家に分裂しました。その一つが現在のロシア連邦で、共産主義ではありません。ロシアの経済の制度は我々のと大体同じような感じです(ただしロシアは「修正資本主義」といわれます)。国家は国民の財産権を保障したり、法を整備して必要なときにそれを守らせる力を行使し、その他にさまざまな公共サービスを提供する(ロシアでは実際穴だらけでしかも腐敗が進んでいる)わけですが、それゆえに、そしてそれをするためにも、我々もそうですが国民は税金を払うわけです。税収のない国家は回りません。しかし、ロシアでは税収が見込めませんでした。なぜなら、私有財産がないからです。共産主義では全てが国のモノです。私有財産がないのに財産税は払えません。
       困った政府は国民にバウチャーを配りました。これは国の財産を買うことができるチケットです。しかしほとんどの国民が何のためにそれをする必要があるのか理解しておらず、それよりも生活必需品をほしがっていました。ここで一握りの頭のいい連中が登場します。「みんなが持っているバウチャーと自分が持っている肉や卵、酒、服などを交換しますよ」と言い始めたのです。みんなバウチャーを持って集まってきます。たくさん交換して、彼らは大量のバウチャーを手に入れました。彼らはそれを国の財産と交換しました。手にしたのは国営の会社です。石油天然ガスや金属関係の会社、テレビやラジオなどのメディア関係の会社、食品製造関係の会社、その他たくさんの会社を買いあさりました。彼らは頭がいいですから、ちゃんと知っていました。ロシアは天然資源に依存している国であること、インフラの整備に金属やコンクリートが欠かせないこと、食品を買わない人間などいないということなどなど。ですからそれらを牛耳ることで巨万の富を得ることを思いついたのです。彼らは後に財をなして、「オリガルヒ」と呼ばれるようになりました。中澤孝之氏によると、「オリガルヒ」とはギリシャ語が語源で、寡頭政治、寡頭体制、少数独裁を意味し、現在では寡占資本家を指す用語であるとのことです。ちなみに「寡占資本家」という現在的な意味で使われるようになったのは、1997年12月1日のボリス・ネムツォフ第一副首相の発言以来のことだそうです。



2.著名なオリガルヒとその経済的基盤
ボリス・ベレゾフスキー・・・民間石油王手「シブネフチ」、ロシア公共テレビORほか、ラジオ、雑誌など多数のメディア
ウラジーミル・グシンスキー[写真右]・・・民間放送王手「NTV」、ラジオ、雑誌など多数のメディア
ミハイル・ホドルコフスキー・・・民間商業銀行王手「メナテップ銀行」、民間石油最王手「ユコス」
ロマン・アブラモーヴィチ[写真中央]・・・プレミアリーグ「チェルシ-」オーナー、民間石油王手「シブネフチ」
ウラジーミル・ポターニン(唯一の非ユダヤ系)・・・非鉄金属王手「ノリリスク・ニッケル」
ミハイル・フリードマン・・・民間石油王手「TNK」
ピョートル・アヴェン・・・民間商業銀行最王手「アルファ銀行」
レム・ヴャヒレフ・・・「ガスプロム」、「シブネフチ」
ヴィクトル・チェルノムイルジン・・・「ガスプロム」
アレクサンドル・スモレンスキー・・・「メディア・モスト」「スタリーチヌィ・バンク」
このほかにも大勢のオリガルヒと準オリガルヒがいます。上記のベレゾフスキー、チェルノムイルジン(オリガルヒ巨大化の原因を作った人物)はもう死んでいます。


3.政府とオリガルヒ
    オリガルヒたちはこの影響力を背景に政界へ進出しようとしました。エリツィン時代はこのオリガルヒと政府の関係がズブズブになりました。お金のことしか考えていないオリガルヒに操られ、エリツィンはたいした成果も上げられずに、晩年は体調を崩して引退しました。
    プーチン政権時代になって政府はオリガルヒと次第に距離を置き始めます。プーチン大統領はエリツィンと特に親しい「ファミリー」の一員であったため、政府とオリガルの蜜月関係をよく知っていましたし、同時に鬱陶しいとも思っていました。彼は初めて大統領選挙に立候補したとき、「汚職と不正を根絶すること」を唯一のスローガンとしていました。そして就任後に宣言通りそれを実行しました。いわゆる「オリガルヒ狩り」を行い、一人また一人と、消したり投獄したりし始めたのです。



4.資産
   フォーブス紙電子版に「最も裕福な10人のロシアの億万長者」という記事がありました。それによると現在ロシアの億万長者は117人いて、合計5840億ドル(約65兆円)の資産を保有しているということです。一位はアレクセイ・モルダショフ&ファミリーで資産は291億ドル(約3兆円)だと書いてあります。モルダショフはオリガルヒではありませんが、ここにはポターニンなどロシアのオリガルヒたちの名前も見つけることができます。
    BUSINESS INSIDERには驚くべき記事があります。「世界で最も裕福なのは、実はプーチン大統領だった?」(2018年3月14日)なんとプーチンには総額2000億円(約22兆円)の隠し財産があるというのです。以前、反体制派のアレクセイ・ナヴァーリヌィが、約1400億ドルの国の金をプーチンが横領した、と主張していました。BUSINESS INSIDERの数字に近い(600億ドルの差って近いんですかね)ですね。
    「驚くべき」と書きましたがある意味「2000億の財産」はそんなに驚くべきことではないのかもしれません。オリガルヒの中には今でも政界入りを狙っている者がいると言われています。プーチンを引きずり下ろし「皇帝」の座を手に入れようと目論んでいるようです。ホドルコフスキーも2004年に大統領の座を狙っていました。「ロシア大統領」とは、世界一の権力者と言われるアメリカの大統領ですら持っていない特権を持っていることを意味するのです。ロシアの大統領は「皇帝」の力を受け継ぐ存在であり、法の上の存在です。オリガルヒがいくら億万長者といわれようとも法に縛られる上に、大統領の権力には適わないのです。ですからこの世の全てを手に入れるために大統領の椅子が必要なのです。なるほどこれは億万長者が夢に見そうなことですね。そこで「間違ってもプーチン大統領に戦いを挑むことがないように」、オリガルヒにとってもプーチン大統領が雲の上の存在でありつづけるために、この隠し財産は存在しているのだとか...。



5.政府との協力
   エリツィンはオリガルヒに操られてしまいましたが、プーチン大統領は違います(政治的制約はあると思いますが)。逆にオリガルヒを利用しているのです。 ロシアでは今でも給料の未払いや支払いの遅延が頻繁に起こっています(ロシア軍ですら遅延があるくらいです)。労働者は毎月お金がもらえるのかどうか不安な中で仕事をしています。 もう何年も前ですが、プーチン首相(当時)がオリガルヒのオレグ・デリパスカ[写真左]に「キレた」ことがありました(下に動画があります)。端から見ると給料の未払いや工場の閉鎖で労働者を苦しめる悪人デリパスカを「皇帝」プーチン首相がこらしめる、いかにもロシア人が(そしてロシア国外のファンが)喜びそうな絵でした。この動画を真に受ける人もいますが、一方でこれが大統領とオリガルヒ、金をもらった労働者がグルになって「良きリーダー像」を創り出すためにやった演技だと言う人もいます。筆者もそう思います(木村汎氏の本にも「ロシア国民はプーチンの共犯者だ」という言葉があった気がします)。どこかの新聞は「デリパスカはあの時プーチンの言うことを聞いておいて良かった」と、以前より財産を増やしたデリパスカについて書いていましたが、このような報道は誤っています。おそらくデリパスカは脱税(その他の犯罪も)をしているでしょうし、プーチン大統領はそれを看過しています。見逃す代わりに自分の政権のイメージ向上を手伝わせ、またこれは別の記事で書きますが、さまざまな国家プロジェクトへの資源面での協力を求める(政治的制約をなくす)という関係です。


6.オリガルヒは消えるのか
   「消えるのか」というより「消されるのか」と書いた方が正しいのかもしれません。20年を超えたプーチン体制の中で、彼自身の汚職や不正に関する情報が(正誤は別として)数多あります。しかし、上記の通り、プーチン大統領はもともと反汚職・反不正の立場でした。大統領就任以前は汚職や不正をしない(そして柔道家らしい礼儀正しい)人間として有名だったという話もあります。「私はプーチン(の使いの者)に殺された」と主張した故アレクサンドル・リトビネンコ氏はプーチン大統領について「第一に、すぐに答えを出してくれる人物。第二に、言ったことには必ず責任をもつ人物。第三に、非常に親切な人である」と発言しています。「行ったことには必ず責任をもつ人物」という彼の発言を信じるとすれば、プーチンはいずれ汚職や不正を正すことでしょう。汚職や不正の根幹とも言えるオリガルヒを潰すということです。しかし、これには困難を極めます。相手は金持ちであり、西側とのパイプを持ち、そしてなにより安全保障に関わるロシアの基幹産業を牛耳っているわけですから。それにいくら国民を苦しめている元凶であるオリガルヒと言えども、西側はそんなことは気にせず、消されればプーチン政権を名指しで批判します。そして経済制裁が発動され国民がさらに苦しむわけです。ロシアには「ローテンベルグ法」というものがありました。ロシア国民が外国の機関の決定によって資産を失った場合、国庫からこれを補填できるという法律です。現在この法律は存在していませんが、そんな事は関係ありません。ロシアでは、法律なんて、あってないようなものです。常識です。逆に法律は、どこにも書いていなくても、あるのです。要人の損失は鶴の一声で補填され、結局経済制裁によって苦しむのは国民です。オリガルヒがいては国民は苦しみ、オリガルヒを消しても国民が苦しむ。批判の対象になるのは政府です。プーチン大統領は身動きがとれません。だからオリガルヒ全員は消えませんし消せません。国民を幸福にする唯一の方法は、オリガルヒと上手くやっていくことです。これまでのプーチン大統領の行動をいくつか見てみましょう。グシンスキー(メディア王)を逮捕してロシアの三大国営放送を政府の支配下に置きました(買収したのは半国営企業のガズプロム)。グシンスキーは政府批判も平気で行うことで有名でした。ホドルコフスキー(石油王)を逮捕して「ユコス」がアメリカの手に渡るのを防ぎました(ホドルコフスキーはロシアの基幹産業である石油の会社をアメリカに売ってボロ儲けしようとしたのです)。また彼は大統領の座も狙っていました。オリガルヒの代表格であったベレゾフスキー(政界でとてつもない影響力を持っていた)を政界から追い出し、自殺に追い込みました(筆者の友人によるとベレゾフスキーは衝動的だったらしいで、他の個人的な理由で死んだのかもしれませんが)。このように見ていくと、今のところ消えたのはプーチン政権・ロシア国家に害を与えようとした人物に限るようですね。例えばアブラモーヴィッチはベレゾフスキーの弟子でしたが、政府と敵対しないように努めていますから消されそうにはないです(インスタグラムでプーチン大統領の誕生日を祝っていました)。何人か排除することができたのは、ひとえにプーチン大統領がKGB(国家保安委員会)、FSB(連邦保安庁)で働き、その強力な闇の力を持っているからです。プーチンが政界を引退すればオリガルヒを抑えられる人物はいなくなるでしょう。







参考文献:
北野幸伯 2016 『プーチン 最後の聖戦』 集英社インターナショナル
中澤孝之 2002 『オリガルヒ ロシアを牛耳る163人』 東洋書店
小田 博一 2015 『ロシア法』東京大学出版会
朝日新聞国際報道部 2012 『プーチンの実像』 朝日新聞出版
Forbes "The 10 Richest Russian Billionaires 2020"
https://www.forbes.com/sites/chasewithorn/2021/04/06/the-10-richest-russian-billionaires-2021/?sh=364820646e84
(2021年10月14日閲覧)
BUSINESS INSIDER 「豪邸、ヨット、高級腕時計 ……世界で最も裕福なのは、実はプーチン大統領だった?」
https://www.businessinsider.jp/post-163320
(2021年10月14日閲覧)