РОССИЙСКО-УКРАИНСКИЙ КРИЗИС (2021—2022)

      

今回の事態を招いたのはバイデン外交の失敗だと考える識者は多いです。筆者もバイデン政権の責任は重いと考えます。今回は有名なデール・カーネギー氏の著作を引き合いに出して少しだけ分析していきます。

バイデン政権の特徴を一つ上げるとすれば、「多様性」です。アメリカの歴史に照らしてこれまで光を浴びることのなかった人たちが多く登用されています。
在日アメリカ大使館の公式サイトには「史上最も多様性に富んだバイデン・ハリス政権」という題でこんな記事があります。
「ロイド・オースティンは黒人初の国防長官、ジャネット・イエレンは女性初の財務長官、アレハンドロ・マヨルカスはラテン系かつ移民として初めて国土安全保障長官になりました。ザビエル・ベセラもラテン系として初めて保健福祉長官に、デブ・ハーランドは先住民初の内務長官に就任しました。ピート・ブティジェッジ運輸長官はLGBTQ+であることを公言した初の閣僚です。セシリア・ラウズは有色人種として初めて大統領経済諮問委員会(CEA)委員長に、そしてキャサリン・タイは有色人種の女性として初の米通商代表部(USTR)代表に選ばれました。女性初の国家情報長官にはアブリル・ヘインズが就任、保健福祉省のレイチェル・レビーンは、上院の承認を受けた初めてのトランスジェンダー高官です。(①)」
すばらしく多様性に富んでいます。

大使館の公式サイトで公表されているものですが、バイデン政権で政治任用を受けた人の構成は次の通りです(①)。
・女性 ‐ 58%
・黒人またはアフリカ系 ‐ 18%
・ラテン系あるいはヒスパニック系 ‐ 15%
アジア系あるいは太平洋諸島系 ‐ 15%
・中東系あるいは北アフリカ系 ‐ 3%
・先住民あるいはアラスカ先住民 ‐ 2%
LGBTQ+ ‐ 14%
・退役軍人 ‐ 4%
・障害者 ‐ 3%
・家族の中で初めての大学進学者 ‐ 15%
・帰化者あるいは移民の子ども ‐ 32%

ギャラップの最新調査では、2017年時点でアメリカ人の5.6%が性的少数者(LGBTQ+)として認識されています(②)。調査会社censusによると、女性は人口の約51%、黒人またはアフリカ系が全人口の約13%、ラテン系またはヒスパニック系が約19%、アジア系は約6%、先住民系は約1%となっています(③)。

今回の人事を見て、明らかに割合が多いのはアジア系と性的少数者の登用です。トランプ政権の末頃から、新型コロナウイルスの拡大などが関係して、アメリカにおけるアジア系住民への暴力事件が増加したと記憶しています。こういったこともあってかアジア系の登用が増えたというところでしょうか。性的少数者についても近年世界的にその権利が主張されているところですから、アメリカが先頭に立って世界に発信していきたいという気持ちの表れでしょう。ちなみにロシア政府はLGBTQ+の人たちの人権を無視しています(詳しくはこちら)。

政治任用を受けた人が能力で選ばれているのならそれで構わないのですが、実のところどうなんだろうというのが筆者の感想です。大使館公式サイトでは「国務省では、アントニー・ブリンケン国務長官が、「多様性とインクルージョンは外交チームをより強く、賢明で、クリエイティブかつ革新的にする」と強調しました。(①)」という文が掲載されています。
外交チームはトランプ政権の頃より強くなったのでしょうか。今回この外交手法がアフガンからの撤退も含めて上手くいっていないような印象を受けます。アメリカの政治関係者についての知識はありませんから正確なところは言えませんが、トランプ政権のように能力で選んでいれば、今回のロシアによる介入を防ぐことができたように思えるのです。

今回の介入に先立って、プーチン大統領はアメリカを中心とするNATOに3つの要求をしました。そして別記事で書いたように、プーチン大統領は、ロシア側の要求が無視されたと言いました。
プーチン氏の日頃の主張やプーチン専門家の著作などでも、プーチン大統領が「アメリカから対等に思われたい」と望んでいることは明らかでした。しかし西側はロシアの要求に耳を貸しませんでした。

プーチン氏がKGBの赤旗大学時代に教科書として読んだ本に『人を動かす』(デール・カーネギー著)があります。そこには人間関係の構築において大事な「原則」がたくさん載っています。

「原則10:崇高な使命感に訴える」(④)
相手が信頼できるかどうか確信がないときは、相手を、誠実で正直で信頼でき、自発的に支払う意志がある人だ(本の内容は料金の支払いの話)、という前提で接するのが唯一正しい方法なのです。はっきり言えば、人間は正直であり、義務の履行を望んでいます。例外は、比較的わずかです。騙す意図を持った人でも、相手から正直で公正で公平だと思われたら、たいてい好意的になるという確信があります」(④)
バイデン大統領は何を言ったでしょうか。1年くらい前に「プーチン大統領は人殺しだ」と言いました。崇高な使命感に訴えようとはしていません。

「原則8:相手の視点から、誠実に物事を見る。」(④)
なぜプーチン大統領は侵攻に踏み切ったのでしょうか。もし欧米の指導者たちがロシアの歴史や今日置かれている状況、プーチン大統領自身についてもっと関心を持って接していたら今日は違った日になっていたかもしれません。ロシアはこういう歴史を積み重ねてきた、ロシアはこういう経験をした、プーチン大統領はこんな人生を送ってきた、あなたの気持ちはわかるよ、ロシアの現状を理解しているよ、こういったやりとりがなかったのではないでしょうか。話し合いをしようとしなかったんですから。

筆者がこの本の中で特に好きな部分はここです。第1章の一番最初にある「原則1:批判や非難で人は変わらない」(④)。
「人間は、理屈の動物ではありません。感情の動物です。偏見に満ち、自分を過信した動物なのです。批判は危険な火花です。その一つが、自尊心の火薬庫で爆発を引き起こす恐れもあるのです。(中略)批判や非難、文句を言うことは、ばかでもできます。実際、ばかな人ほどそういうことをします。一方、相手を理解し、慣用でいるためには、品格と自制心が必要です。(中略)非難する代わりに、理解しましょう。行動の理由を考えるのです。それは、非難するよりはるかに有益でおもしろいことです。共感の心や許しの気持ち、思いやりも生まれます。「全て知れば、すべて許せる」のです。」(④)
批判や非難ばかりしている人は相手の立場に立って考えることはできません。どうかこの悲惨な状況が一刻も早く改善されるように、「相手を理解すること」に努めて欲しいと思います。

アメリカでは中間選挙が控えています。バイデン外交はあまり良い結果を残せていませんから、共和党にやられるのではないかという話はよく聞きます。だからこそウクライナ情勢に関しては一切譲歩せず強気な態度を示したかったのかもしれません。もしくはアメリカ国民がウクライナ問題へのアメリカの関与に否定的であるため、こういった国内の声を反映してロシアとウクライナから距離をとったのかもしれません。

バイデン大統領の言動が全ての原因ではありません。しかし、少なからず責任があります。
2月24日の読売新聞オンラインでは次のようなバイデン大統領の発言が掲載されています。「プーチン氏は、あらかじめ計画されていた戦争を選んだ。これによってもたらされる死と破壊の責任は、ロシアのみが負う。(⑤)」
こういった姿勢で状況は良くなるのでしょうか。真に平和を愛している人間の言うこととは思えません。


■参考文献
①アメリカンビュー 「史上最も多様性に富んだバイデン・ハリス政権」(2021年6月22日)
https://amview.japan.usembassy.gov/the-biden-harris-administration-is-the-most-diverse-ever/

②GALLAP' "LGBT Identification Rises to 5.6% in Latest U.S. Estimate" (2021年2月24日)
https://news.gallup.com/poll/329708/lgbt-identification-rises-latest-estimate.aspx

③Census Bureau "QuickFacts United States"(2022年3月10日)
https://www.census.gov/quickfacts/fact/table/US/RHI225219

④デール・カーネギー (2016) 『人を動かす』 新潮社

⑤読売新聞オンライン 「「死と破壊の責任はロシアのみが負う」「同盟国と断固とした措置」…バイデン氏が非難声明」(2022年2月24日)
https://www.yomiuri.co.jp/world/20220224-OYT1T50126/