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カテゴリー:ウクライナ情勢
・ロシアへの経済制裁
日本政府は、今回のロシアによるウクライナへの軍事介入を受けて、ロシア連邦の団体および個人に対して経済制裁を発動しました。ロシア連邦政府や中央銀行に対する制裁の他、ロシアの盟友ベラルーシに対してもルカシェンコ大統領を筆頭に制裁を課しました。2014年のクリミア戦争の際に、すでに日本はズベールバンクやガズプロムバンクなど主要な銀行に対して制裁を発動していましたが、追加で57の個人と団体に対して適用されることとなりました。
・相変わらず意味の分からない制裁
前回のクリミア半島編入をめぐる制裁に関しては、当時の安倍晋三首相が、欧米に同調しつつも日露関係に影響の出ないように工夫して制裁を決定しました。有名どころでは、ヤヌコーヴィチ元ウクライナ大統領や、日本のネットでも人気のあったクリミアのポクロンスカヤ検事長などがその対象となりました。そしてドネツク人民共和国やルガンスク人民共和国の関係者も対象になりました。そのほとんどが日本に全く関係なく、何の制裁なのかよく分からないものでした。
別記事で述べたように、2014年のクリミア編入をめぐって日本が西側諸国と共にロシアに経済制裁をした際、プーチン大統領は「よく分からないのは、日本はこの問題(北方領土問題)についての対話のプロセスも中断するつもりなのかということだ。従って、我々は用意ができているが、日本にその用意があるのかが分からない。聞いてみたいところだ。」と記者に話しました(①)。
ロシアとしては敵対国に領土(北方領土)を引き渡せるわけがありませんから、本来自国に対して制裁を課す国と領土交渉などできるはずがありません。
安倍首相はプーチン大統領との会談でこの制裁は西側との関係を考えての仕方のないものだったと直接伝えました。プーチン大統領と親交のあるオリンピック柔道金メダリスト山下泰裕氏に協力を仰いで、日露関係には影響の出ないようにしたつもりだとの言葉を伝えてもらってからのことでした。プーチン大統領は特に個人的な関係を重要視している政治家ですから、こういった関係も利用してロシア側に理解を求めたのは正解だと思います。おかげで安倍首相は退任までの間に第一次政権のときも合わせて27回プーチン大統領と会談することができました。
しかし今回はもうそうはいきません。3月7日に、ロシアの「非友好国リスト」が発表され、日本はロシアにとっての「非友好国」つまり「敵国」となりました。ロシアが経済制裁に対してどんな対抗措置をとってくるか注目です。現地に展開する日本企業への影響は必至です。賄賂文化の横行するロシアですから、平時でも賄賂でもっている部分は大きいはずです。これが非友好国指定となれば操業停止に追い込まれる可能性は高いです。従業員の身の危険も高まります。
令和4年3月から発動されている日本の経済制裁。この対象者がまたしても意味不明です。プーチン大統領を筆頭に、腹心のショイグ国防大臣、ゲラシモフ参謀総長、ラブロフ外務大臣、プーチン大統領の盟友でエコロジー・運輸問題担当大統領特使のイワノフ氏、加えてチェチェン共和国のカディロフ首長など(②)。一体日本政府は彼らの何を差し押さえるというのでしょうか。
仮に今回も形だけの制裁をするつもりなら、この判断は正しくありませんでした。個人攻撃、それも現政権幹部に対しての攻撃は、岸田政権下での日露関係修復不可能を意味します。領土問題も経済協力も進展不可です。時間をおいてから、例えば安倍元首相や森元首相らを送って話をしても、もはやこれまでどおりの関係には戻れないでしょう。
また、形だけではなく、戦争行為に走ったロシアに対して厳しく対処するつもりなら、資産凍結とはつまり何をすることなのか、国民にも世界にもわかるように個別具体的に説明するべきです。すでに非友好国指定を受けているわけですから、日露関係を考えて言及を避ける必要はありません。
■参考文献
①朝日新聞国際報道部 『プーチンの実像」 (2015) 朝日新聞出版
②財務省 「製材制裁措置および対象者リスト」(2021年3月8日)
https://www.mof.go.jp/policy/international_policy/gaitame_kawase/gaitame/economic_sanctions/list.html