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カテゴリー:ウクライナ情勢
  ロシア・ウクライナ双方が責任の擦り付け合いをしている「ミンスク合意」について見ていきましょう。
ウクライナ、ロシア、ルガンスク、ドネツクの4つの国の間には、「ミンスク合意」と呼ばれるものがあります。主に停戦合意が目的です。2014年に「ミンスク議定書」、2015年にはそれに代えて「ミンスク2」(「ミンスク合意」は「ミンスク2」のことをいう)が結ばれました。
「ミンスク議定書」は、2014年のウクライナ革命で親ロシア派のヤヌコーヴィッチ大統領が降ろされ、少し後の大統領選挙で新欧米派のポロシェンコ政権が誕生したあとで調印されたものです。
2014年、公用語のウクライナ語への変更に不満を募らせたウクライナ東部のロシア系住民たちがウクライナ政府と対立し、それが戦闘に発展しました。そしてウクライナ領内のルガンスク州とドネツク州の2つの地域がウクライナからの独立を宣言しました。ルガンスク人民共和国とドネツク人民共和国の誕生です(ロシアはこのときまだこの国を正式には承認していません)。戦闘状態を終わらせるために、この地域の安定を求めるOSCE(欧州安全協力機構)が出てきて、この2国とロシア、ウクライナに声を掛け、停戦や捕虜解放、人道状況の改善などを盛り込んだこの議定書を発効しました。しかし、ロシア側(ルガンスクとドネツクを含む)とウクライナ側双方が度々この合意に違反しました。
そして半年も経たないうちに、「ミンスク2」がフランスとドイツの仲介で、ロシア・ウクライナ間で署名されることになりました。これは主にミンスク議定書の履行を再確認するような内容のもので、停戦や捕虜解放、ウクライナからの外国部隊の撤退、そしてウクライナにおける憲法改正(親ロシア派への自治権付与)などが盛り込まれました。
このあと半年後にルガンスクとドネツクで「ミンスク2」に基づく地方選挙が開催される予定でした。しかし、ウクライナ側からの選挙に対する懐疑的な見方(「ロシアが選挙に介入し自分たちに都合のいい結果を造ろうとしている」など)を受け、OSCEが選挙の正当性を検証する必要に度々迫られ、何年も選挙が実施できない状態が続きました。これについてロシア側は、ウクライナが状況を改善させる気がないものと考えました。ロシア側もウクライナ側も何かと理由をつけて国境付近で重火器を持って牽制し合い、OSCEの監視団に対しても立ち入りを拒むなどして、今回も度々合意に違反しました。ロイター通信は、OSCEの停戦監視団に所属するアメリカ人のメンバーが、重火器類の持ち込みが合意によって禁止されている地域を車で走行中に地雷を踏んで死亡したと伝えました(①)。
ニワトリが先か卵が先かというような形で、ウクライナと2つの共和国の間の戦闘が続けられました。現在欧米諸国は公然とロシアを非難し、手放しでウクライナを支持しています。しかし、以前はウクライナへ懸念を表明していました。例えば時事ドットコムは「ウクライナが初ドローン攻撃 親ロ派に大統領強気、欧米は苦言」という見出しで2021年10月末の攻撃について掲載しています(②)。戦争行為は国際法違反ですからロシアは非難されて然るべきですが、日本を含め西側のメディアではウクライナ側の落ち度がほとんど報道されません。駐日ロシア大使のガルージン氏によれば、2014年から2021年までの7年間で、ウクライナ政府軍との戦闘により、ウクライナのロシア系住民5000人(子供90人を含む)が死亡し、8000人が負傷し、うち1600人が身体障害者になったとのことです。ロシア側はこれをウクライナによる「ジェノサイド」と認識しています(③)。
別記事で述べた、ウクライナの言語政策に起因する問題が、戦闘に発展したのです。住民が仕事を失ったというだけではあまり動けなかったロシアも、戦闘が激しくなるにつれて介入を深めるようになりました。2019年にはロシア系住民にロシアのパスポートを発給しています(④)。
プーチン大統領は大統領就任後、繰り返し「民族主義的な言動・政策は国を破滅させる」と述べています。
ウクライナがしてしまった言語政策は、分断を招くものでした。まさにプーチン大統領が警鐘を鳴らしてきたことをやってしまったのです。
ソ連にはこんなことを言った作家がいました。「自分のであれ他人のであれ 誰かが言うことを信じてはならない。自分のであれ他人のであれ 誰かがやったことを信じよ。」
ウクライナ政府はロシア系住民を社会的に隅に追いやって戦闘までしてしまいましたから、この2つの勢力では折り合いがつきません。これでもうロシア系住民はロシアの助けを待つばかりとなったわけです。
■参考文献
①Reuters "American member of watchdog OSCE killed in Ukraine" (2017年4月23日掲載)
https://www.reuters.com/article/us-ukraine-crisis-osce-idUSKBN17P0CZ
②JIJI.COM 「ウクライナが初ドローン攻撃 親ロ派に大統領強気、欧米は苦言」(2021年10月31日掲載)
https://www.jiji.com/jc/article?k=2021103100694&g=int
③テレ東BIZ 「駐日ロシア大使に直撃 未公開インタビュー(2022年2月23日)」
https://www.youtube.com/watch?v=TWqsVX6310U&t=928s
④日本経済新聞 「ロシア、国籍付与でウクライナに揺さぶり 対象を拡大」(2019年7月8日掲載)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO47465310Y9A710C1000000/