タクシー運転手③ 「だから訊いたんだ!」
7/192022
カテゴリー:筆者の体験
ロシアでタクシーに乗るといろいろなことが起こって面白いです。今回もまたタクシーの運転手についての話です。ロシアでは普通、車を運転しない人はマルシュルートカという乗り合いタクシー(大体12人乗り)に乗って移動します。田舎の場合値段は20ルーブルくらいで、2022年7月19日のレートで見ると48円くらいです。筆者はマルシュルートカが好きなのですが、何番の番号のマルシュルートカがどこに停車するのかを調べるのが面倒な上、そもそも停留所の名前がどこを指しているのか、何度か行ったことがある場所でないとわからないので、普通のタクシー(値段は150ルーブルくらい)のほうをより好んでいます。ちなみにマルシュルートカの場合、日本のバスように「次は××」とは言ってくれません。「次の停留所で停めてください」とか「ここで停めてください」とか言わないと停まってくれませんから、とにかく今どこを走っていて、どこで降りればいいか、街の景色を予め知っておかないといけないのが難点です。対してタクシーは普通目的地のドアの前まで乗っけて行こうとするので楽です。とは言ってもタクシー利用にも難点があります。今回は大変だった経験を一つを紹介します。
2019年のある日、筆者は自身の日本語の生徒のアパートに日本語を教えに行きました。帰りにそこから自分のアパート(水色の丸)までタクシーで帰ったわけですが、ここで面倒くさい運転手に当ってしまいました。筆者が住んでいるアパートの住所を伝えると、彼は「それは大通りのどっち側なんだ?」と訊いてきたのです。大通りのどっち側とは?と思いながらしばらく考えましたが答えが出ませんでした。ロシア語には「ウーリッツァ(通り)」に対して「プロスペクト(大通り)」という単語があるのですが、そもそも一体どっちが大通りなのかがわからないのです。筆者が生徒のアパートに向かう時に通った通り(ピンク)が大通りなのか、それともそれと交差している通り(白い矢印(大)のある通り)がそうなのか。なぜならロシアの国土が広すぎるが故に、どちらも片側3車線になっていた(どちらも大通りのようだった)からです。地元の人間じゃないから分からないと言い、とにかく大学の近くなんだとも言いました。結局大通りは図の白い矢印(大)のある通りだったようです。運転手は黄色い矢印のとおり車を走らせていました。筆者が左手に大学を見つけて、「ここ!ここを左なんだ!」というと、「ここは曲がれない!」と言うのです。片側3車線の道路は反対車線も3車線ですからロシアの道路交通法でその方向には曲がれないのです。「だから大通りのどっち側か訊いたんだ!」と彼は怒鳴ります。本当は反対方向から(紫色の矢印のように)車を走らせないと行けなかったわけですが、そんなこと知る由もありません。結局アパートから道を挟んだところで「もうここでいいよ」と言って金を渡して車から降りました。
タクシーの運転手はいつもスマホのナビを使ってルートを見ています。実は途中「パヴェルニーチェ ナ プラーヴァ(右へ曲がってください)」というナビの音声が流れたのですが、彼はそれを無視してまっすぐ行ったのです。そのせいで黄色の矢印のように来ることになってしまったのです。曲がっていれば紫色の矢印のように来られたのだと思います。彼はそもそも筆者のアパートに迎えに来るときに紫色の矢印のように来ましたから、車庫は紫色の矢印の反対方向にあったわけです。なるほど黄色い矢印のように進みたかった理由がわかりました。
このようにロシアのタクシー運転手は外国人だろうとお構いなしに、行き方を訊いてきます。時にイラッとくることもありますが、日本では絶対にあり得ないこんな光景が次第に好きになってしまいました。今どこを走っているのかわからないマルシュルートカにするか、どの通りをどの方向に行くか伝えないと行けないタクシーにするか、また、ロシアを感じられるマルシュルートカにするか、運転手と時に楽しい会話ができるタクシーにするか、そういう選択を毎回楽しんでいる自分がいました。