トレーニングの文化

ロシア人とトレーニング

    ロシアでは筋トレが盛んだ。ロシアでは昔から、男性は強さを女性は美しさを求めるという役割分担が存在した。その歴史の中でいくつもの混乱の時代を経験したロシアは、男性に、体を鍛えて国や家族を守ることを求めた。以前よりも生活が安定した現在でも、男らしさやロシアの伝統的な男性を表す記号として「強さ」が求められている。ロシアに行けば、スポーツジムや公園で多くの人が季節を問わずトレーニングをしているのを目にすることができる。彼らのトレーニングは人によってさまざまで、バリエーションに富んでいる。見た目ではなく、身体機能の向上や力そのものの強化のためにトレーニングに取り組んでいるのがうかがえる。特徴的なのは、最新のマシンを使わずに、できるだけ古典的なやり方でそれを実現しようとしているところだ。遊牧民の影響を受けてきたロシアの歴史を考えれば、彼らがそのようなやり方を好むのは納得ができるが、実際的にはどのような交流が、ロシアと周辺地域の間にあったのだろうか。その一部を見ていこう。



ジョージアの影響

    筆者の友人のロシア人女性A(28)によると、ロシア人のトレーニングを欠かさない文化はコーカサス地方 から来ているらしいとのことである。そこでロシアの他地域との歴史的な繋がりを踏まえて考えてみようと思う。
  コーカサス地方で格闘技が盛んであった国と言えばジョージア(古代グルジア)が挙げられる。 古代グルジアは、東部と西部で異なる歴史を持つ。西部には紀元前13世紀ごろにコルキス王国が、東部には紀元前4世紀ごろにイベリア王国が栄えた。ローマ帝国やササン朝ペルシアの属州になったのち、11世紀にグルジアの統一が始まった。領土を拡大して12世紀に最盛期を迎え、その後、モンゴル帝国やオスマン帝国、サファヴィー朝の侵攻を受けて、19世紀にロシア帝国に併合された(1991年にソ連から独立)。つまり、ジョージアには、何世紀にもわたって強力な国々と戦争を繰り広げてきた歴史がある。近代以降の戦争と違って、肉弾戦がメインとなるので、これだけ長い間戦争をすることができるということから、そのレベルの高さと、戦闘に備えてトレーニングを積み重ねていた文化があることが窺える。ロシア帝国がジョージアを併合した際に、このジョージアの文化・習慣を吸収したと考えられる。古代グルジアの伝統的武術「チダオバ 」は、その有用性からソ連の格闘技「サンボ」を構成する一つの要素にもなっている。



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